注文建築の請負詐欺にあった話
またまた物騒なタイトルですが、これは約10年前のお話しです。
ある会社(A社)の営業所が移転を検討していました。移転の理由としては現在使用している事務所は井戸水で水質検査をしたところ、飲料には適さないという結果が出たのに大家さんは上水道を引くつもりがないとのことでした。
従業員のことを考えれば移転が当然ということで、私のところに移転先を探して欲しいとの依頼がありましたが、その地域は事務所用の物件があるエリアではなく、なかなか移転先の候補が見つからないまま時間が過ぎていきました。
大体2ヶ月程経ったぐらいでしょうか、そのA社の取引先の社長(B)が「良い土地を知っているので自分が土地を購入し、事務所用の建物を建てるから20年の長期で賃貸借契約を締結して欲しい」そのような申し出でした。(取引先の社長といっても1人親方で会社としても小規模な会社です)
そのBとA社の営業所長が仲が良かったこともあり、その話しで進めようということになりました。但し、A社の本社はBのことを全く知らないので私の会社が借主としてBとの賃貸借契約をしてもらい、私とA社の転貸契約にしたいということでした。お付き合いの関係もあり、転貸料も潤沢に頂けるということもあったので、その話しを了承しました。
そしてBと打ち合わせの機会を設け、大まかな流れを聞くと、すでに土地については売買契約を1週間後に締結予定、建物についてもすでにハウスメーカーより土地の敷地形状から間取りを作って貰っており、打ち合わせを進めている。土地と建物を合わせて約5000万円程を取引のある銀行から融資を受ける。建物の竣工については約半年後の予定。
その説明を聞いている時点では特に違和感はなかったので、建物の完了検査が終わったら、賃貸借契約の締結をということで打ち合わせを終えました。
その後、Bから土地の売買契約から引き渡しを受け、建築請負契約も終えて、建物の着工が始まったと聞き、順調に進んでいると思っていました。ところが着工から1ヶ月半程経ったぐらいに、A社の従業員より現場を見たが鉄骨の骨組みだけ残して工事が止まっているとの連絡がありました。
A社は徐々に移転の準備を進めており、現在の事務所の大家さんへ解約通知を出すタイミングを計っているところだったので、Bに確認したところ、「ハウスメーカーに確認をしたが、竣工予定までに完成するから大丈夫と言われている」ということでした。
しかしここらへんから違和感を感じ始めました。そこで建築請負契約の書面をBから入手し、確認してみると請負金額の8割の金銭を契約時と着工時に支払っていました。一般的には契約時に1割、着工時に2割~3割ほどの支払いなのにです。
Bに慌てて連絡し、「これは払いすぎじゃないか、その会社は大丈夫なのか?」と聞くと、モデルルームもあるような会社だからとそしてハウスメーカーの若い担当者を信じているようでした。
状況をA社と話し、まだBに危機感がないし、こちらに実害が出ていないのでまだ待ってはみるが、大家への解約通知はまだしない、そして他の移転先を探しておいて欲しいということで方向性を定めました。
それから1ヶ月が過ぎても現地は工事が止まったままの状態で放置されていました。明らかにこれはおかしいとBに連絡するとBもさすがにおかしいことに気づき始めていたので、のらりくらりと何を言っても納期までには完成させると言うハウスメーカーを飛ばして、下請けの建築会社に直接連絡をすることにしました。
建築会社の社長とアポイントが取れ、直接話しを聞くと「最初にハウスメーカーより300万円の入金があったので、その分の仕事はしたが、それ以降は全く支払いがないので、こちらとしても職人を引き上げさせた」
それを聞いた時に、最初に脳裏によぎったのはBがまずいということでした。すでに8割の入金を済ませているのに、ハウスメーカーは建築会社には300万円しか支払わず、支払いを止めている。請負詐欺の可能性が高い、それにBはすでに5000万円の融資を受けていて、返済が始まっている。
Bにそれを伝えると、弁護士に相談するということで、後日Bのみで弁護士のところに行くということになりました。またA社に状況を報告したところ、代わりの物件を探すことに注力して欲しいということになりました。この時点でA社はBのことを見限り始めたと思います。
そして弁護士に相談した結果は、全く工事をしていないわけではないので、完全な詐欺罪としては難しい、また請負契約書に記載されている引渡し日も過ぎていないのでまだ契約書の内容に収まっているという回答だったそうです。
その後、そのエリアで唯一といっていい事務所物件に空きがでたという情報をキャッチした私はすぐにA社に連絡をしました。そしてA社はすぐにその物件をおさえて欲しいとのことでしたので、物件を確保し賃貸借契約に至りました。
BにはA社の営業所長から話しをするということで、私はその後のBがどうなったかはわかりません。ただ、A社の契約した物件の引き渡しに行ったとき、Bの購入した土地を確認してみると、錆びた鉄骨の骨組みだけ残された廃墟のような状況となっていました。
この話しの唯一の救いといえば、ハウスメーカーの社長が逮捕されたことです。ただ、逮捕されたのも請負詐欺ではなく、投資詐欺でした。(どうも他に元本保証で高配当という触れ込みでお金を集めていたようです)この話しの教訓は「最初に多額の現金を要求する建築業者には注意すること」です。Bがそのハウスメーカーを見つけたのは坪単価が破格に安いというネット広告です。もし家を建築されるときは大手のハウスメーカー以外は信頼のおける人物や会社からの紹介などで依頼される方が安全だと思います。